石母田正という人

「近現代を語る会」の準備で石母田正の「歴史と民族の発見」を先週読み終えました。私はこの人の肉声を聞いたことがあります。と言っても直接聞いたわけではなく、NHKが作った講演テープを持っていたためです。講演のタイトルは「歴史学と日本人論」というもので、丸山真男の「歴史意識の古層」という論文を批判する内容でした。私は、この人の声を聞きながらいつも思うことがありました。「国民的歴史学運動の旗振り役だった人の割には、知識人にファンが多いのはなぜだろう」ということでした。特に、私が愛読した藤田省三という学者は石母田を買っていました。藤田という人は、まさに毒舌家で、晩年などは師である丸山もボロカスにけなしていましたし、鶴見俊輔なども「思想の科学」の同人仲間だったのにケチョンケチョンでした。なのに、政治的位置もほど遠いはずの石母田をなぜ藤田は評価するのか。それは、おそらく石母田の「誠実な人柄」なんだろうと思いました。月並みな言葉ですが、それしかないようです。歴史の中で「時代の寵児」となった人は、その前衛さゆえに後世からは冷たくあしらわれることが多くあります。その批判を乗り越えてなお名の残る人が「一流」なんだろうと思います。石母田の場合、まさに戦後は「歴史界のイデオローグ」でした。彼の言葉に振り回された人はいっぱいいたはずです。網野善彦もその「振り回された」人のひとりです。しかし、その網野も石母田を評価しています。評価している理由は「国民的歴史学運動が提起した課題は現在の問題である」という理論的なものだけでなく、「あのこと(国民的歴史学運動)で『すまなかった』と謝ってくれたのは石母田さんだけだった。」という事実があるからだろうと思います。先日古い論文集を探していたら、「石母田正の自己批判について考える」という論文を複数見つけました。「自己批判」と簡単には言いますが、なかなか出来ることではありません。また、関係者に直接謝罪するということはそれ以上に難しいような気がします。それが思想的なことである以上なおのことです。やはり「最後は人」なんですよね。
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by yksayyys | 2007-07-06 04:40 | 社会 | Comments(0)